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僅かに肩を震わせながらも、その場から離れない彼女の反応に安堵し、目前で足を止める。
「そこで気付く…いや、受け入れるべきだったんだ。いちいち考えるまでも無いくらいに、お前の隣に居ることが大切だった、ということに」
「…アルく……ッ!?」
名を呼び掛けたリブラを、アルベインは両腕で抱きしめた。
緊張に強張った身体から、次第に身を寄せるようになっていくのを肌で感じ、拒絶されなかったことに胸を撫で下ろす。
「当たり前に手を貸して。当たり前に気を配って。そして…当たり前に好きになったんだ」
口にするのも気恥ずかしい心の内。だが躊躇いは無かった。紡ぐ言葉の一句一句に思いを込める。
「…ずっと、俺の傍で笑っていてくれ、リブラ。その笑顔を手放したくないんだ…」
不器用な男が紡いだ精一杯の告白だった。
「…うん。ずっと傍に居る。アル君がいれば、私いつだって笑顔になれるよ。だから…」
リブラもまた、アルベインの背中に手を回し、抱きしめた。そして声を震わせながら、彼女は言葉を続けた。
「もう少しでいいから。このまま私を離さないで…」
彼女のささやかな我が儘に、アルベインは抱擁する力を僅かに強めた。
幸福な時間だけが、その場に漂っていた。
今は、まだ。
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