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成人の儀。
それは村総出で行われる祭事であり、質素堅実な日常を過ごす人々が謳歌する、数少ない娯楽の内の一つであった。
儀式は早々と執り行われ、今は祝辞を名目にした単なる宴会に移行しており、村の至る所で無礼講のドンチャン騒ぎが乱立している有様であった。
その喧騒の一角で、一人身を隠すようにして、確保してきた酒を煽るように飲み干している男の姿があった。
パートである。
(女にフラれてやけ酒とは、俺も随分と小物だなァ…)
背もたれに選んだ樹木に身体を預け、酒瓶に直接口を付けて飲み干し、空を無造作に投げ捨てて次を手に取る。
その赤い顔を見れば酔いが回っているのは明らかだが、それを制止す者はその場に居合わせていなかった。
(…ま、どうでもいいか。今更取り繕った所で、もう手遅れなわけだし)
思考がまともに働かない、泥酔状況であることは間違いない。パートは心に空いた穴を埋めるように飲み続けた。
しかしそれも、酒が尽きるという事態によって終わりを迎えることとなった。
(…ちっ。流石に、持ち出す量には限界があるか。この程度じゃ、酔えもしないぜ)
新しく補充してくるか、などと考えはじめたその時。
視界の端に、人混みを避けるように歩いていく、二つの人影を捉えた。
月明かりと篝火にのみ照らされた薄暗い中では、顔の判別など出来る筈もない。
が、パートだからこそ、その二人が誰であるのかを雰囲気で感じられた。
(リブラと…アルか。ま、よろしくやってくれって感じだなぁ)
自分が口を挟む状況ではない。それがパートが出した結論だった。
だが。
(…このまま、黙って引き下がるのも癪だな。腹いせに冷やかしてやるか)
酔いの回った頭とは思えない、実に狡猾な嫌がらせを閃いたパートは、千鳥足でふらつきながら、二人が去っていった方角へと歩き出した。
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