第二章 平穏の終わり

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 人の気配のない森の中を、並んで歩く二つの人影。 「足元見てないと危ないだろ」  アルベインの忠告に対して、 「じゃあ、こうすれば平気でしょ?」  腕に絡み付くように寄り掛かるリブラ。  危うくバランスを崩しかけたが、この状況でそれはあまりにも情けない。  プライドが勝ったアルベインは、姿勢を直しつつ非難の視線を向けるが、当人に気にした様子は見受けられず、満面の笑顔を浮かべたままだ。  毒気を抜かれたアルベインは、溜息を一つ吐いて気持ちを落ち着けると、彼女の気の済むようにさせてやることに決めた。 「…お前、酔ってるだろう。さっきも、隣の伯父さんと案山子を間違えて挨拶してたし」 「そ、そんなことないよっ! あれは日が落ちて暗くなってたからだもん」  慌てて弁解するリブラの言葉を聞き流しながら、アルベインは爽やかな笑みを浮かべながら、彼女の頭を撫でた。 「そーかそーか。じゃ、そういう事にしておいてやろう」  そのぞんざいな対応に、ますます頬を膨らませる。  遂には自ら組んだ手を振りほどき、スタスタと歩いて行ってしまった。  正しくは行こうとした、だろうか。 「あ。一人で先に進むと…」  言い終わる前に、期待を裏切らず足を引っ掛けたリブラが、地面に向けて綺麗に倒れ込んだ。 「……ぐすっ」 「言ってる傍から…ほら、大丈夫か?」  涙目になって起き上がろうとしているリブラに、アルベインか駆け寄って手を差し延べる。  が、完全に不貞腐れている彼女はその手をとらず、非難の視線で見るばかりだ。 「…アル君が意地悪するからだよ」  アルベインは動じた様子もなく、まさしく意地の悪い笑みを浮かべながら言葉を返した。 「俺のせいなのか? 意地悪って、その方が良いって言ったのお前だろ」 「意地悪が良いって意味じゃ無いの! もうっ!」  今にも飛び掛かって来そうなリブラの肩に手を置くアルベイン。  行動の真意を測りかねて眉を寄せる彼女を余所にを、両手で抱き抱えて見せたのであった。 「そう怒るな。ここまでからかったんだ、ずっと一緒に居てやるよ」  率直なアルベインの言葉に、リブラは耳まで真っ赤にしてうろたえる。 「…意地悪はしない方がいいのに…」  結局それ以上の言葉はなく、力強い腕に抱かれたまま、リブラはその身を預けるのだった。
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