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日も沈んだ頃合いに響き渡るのは、一人の男が樹齢不詳の幹に額を打ち付けた、殴打音だった。
ヒリヒリと痛む頭を抱えながらうずくまるパートは、己自身の軽率な行動を呪っていた。
(何だって俺は、あの二人尾行するなんて思い付いたんだ…?)
十数年想いつづけた女性が、目の前で別の男とイチャついている光景を目の当たりにして、平静でいられる道理は無い。
とりあえず、額に走る痛みで正気に返ったパートは、その場で膝を抱えて座り込みたくなる衝動を押さえ込んだ。
「…はぁ。何がしたいのか、自分でも分からなくなってくるぜ」
パートは呟くと、その場に仰向けになって倒れ込んだ。
見上げた先には、緑の切れ間から覗く星空が浮かんでいる。村の篝火もここまでは届かず、輝きが目に痛いほど鮮やかだった。
だが、その痛みを理由に泣き喚くには、彼は大人であり過ぎた。
(俺は…何でこうなっちまったんだ? どこかで、何かを間違えたのか?)
その疑問に答えはない。
何を考えることも苦痛を感じはじめたパートは、思考を放棄して星空を見上げる。
異変は、そこから始まっていた。
「…あ?」
手の届くはずもない星空が、割れた。
そう表現する以外にない光景が、視界の先に広がっていたのである。
更にはその亀裂をくぐり抜け、流星の如く流れ落ちる多くの光が、地上目掛けて突き刺さる事態となる。
空気を裂いて大地へと達した輝きは、自らを知らしめるかのように、衝撃と粉塵を巻き散らす。
酒の酔いなど一瞬で覚めて、頭痛を抱えたまま飛び起きるパート。
「おいおい…何事だよこれは…!?」
断続的に響く衝撃に煽られ、取り乱すパート。
無理もない事態であったが、それでは何一つ解決しない。パートは自らを奮い立たせ、頬を叩いて気を入れ直した。
(…事情は分からんままだが、とにかく村へ戻って状況を…いや、待て!)
引き返そうとした、その足が止まる。今この場で、事態に巻き込まれているであろう者たちに、意識が向いてしまったからである。
(リブラ…アル! あいつら、巻き込まれてないだろうな…?)
リブラはともかく、アルベインがこの状況に右往左往する姿は、パートには想像出来なかった。
だが、同行者に気を取られて下手を打つ可能性は捨て切れない。
それが分かるほどには、彼女の在り方を見続けていたのだから。
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