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春の陽気に導かれるように咲き乱れる花畑の片隅に、2人の子供が向かい合いながら座り込んでいた。
1人は金髪の少女。どこか期待に満ちた表情で、目前のもう1人をじっと見つめている。
1人は赤髪の少年。自分に向けられた視線に顔をしかめ、意図的に視線を逸らしながら傍らへと手を伸ばす。
その先にはつい今しがた摘んだと思われる、色とりどりの花が並べられていた。乱雑に置いてあるように見えるのは扱いの悪さのせいと言うより、単に種類や数が多すぎるからだろう。
横目で色、形を確認しつつ数本手に取ると、記憶をなぞるよう極力正確に、それらを編み込むように重ねあわせていく。
そうした作業をそつなくこなす少年の姿に、少女は特に意識した様子も無いままに口を開いた。
「アル君はすごいね……何でも出来ちゃうもん」
唐突に名を呼ばれたことで、少年は思わず顔を上げる。
少女にせがまれるままに花冠を作らされていた彼は、その一言に小首を傾げながら言葉を返した。
「オレがすごいってワケじゃないだろ、リブラ。オマエがぶきっちょなだけじゃないか?」
率直に褒められたことが照れ臭いという面もあるのだろう、少年は敢えて意地の悪い言い回しをする。
それはほんの悪戯のつもりで、相手を傷つけようなどといった感覚は全くなかった。
だが。
「……イジワルだよ、アル君。わたしだって、好きで不器用になったわけじゃないのに」
未成熟な心のままの少女には、そんな些細な刺激すら痛みと感じられた様子である。
今にも泣きだしそうな表情を浮かべる少女の姿に、少年は焦りながらも弁明を試みた。
「べ、べつにオマエを責めてるワケじゃないぞ。失敗したって、次こそはっていつも頑張ってるのも知ってるし……だから泣くなよ、な?」
「う、うん……」
素直な性格であることが幸いしたと言うべきか、少女は少年の言葉をそのまま受け取った様子で、目元を拭いながら頷く。
その反応に安堵のため息を漏らすと、少年は気を取り直して作業を再開した。
やや気まずい沈黙が訪れる中、手にした冠に視線を落としながら、作業を中断したことで記憶から飛んでしまった工程を思い出していく。
とは言え、少女の気落ちしている様子を目の当たりにした空気のままではそれもままならない。
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