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(…あれ。さっきと同じ状況?)
先刻、狼に襲われた際にも、アルベインから庇われていたことを思い出すリブラ。
どう足掻いても、自分は守られる立場にあるという事実を痛感し、その表情を僅かに陰らせた。
しかし、眼前の脅威を凝視していたパートは、その事実に気づけない。
「…アル君は、少し離れたところで襲ってきた狼の所に。私を逃がすために…」
自己嫌悪に表情を歪めながら答えるリブラ。
「…そうか。あいつは今、一人か」
パートは、ただその一言のみを返す。
その冷静な物言いに、リブラは自らが責められていると感じたのだろう。
「ごめんなさい。私…何もできなくて」
「…アルが言い出したことだろう。お前が気にすることじゃない」
突き放すような口調に、リブラは僅かに肩を落とす。
パートにしても、アルベインを選んだ彼女に対する態度を決めかねていたので、無理もない反応ではあった。
そんな二人の心の在りようを愉しむかのように、獣はその場を動かない。しかし視線を逸らすこともない為、動けないのは二人も同じだ。
(…あいつに代わって、俺がリブラを守り通せたら)
パートはそれ以上の考えを放棄した。既に結果の出ている現実は覆ることはない。
或いは、塗り潰すことは出来るかも知れない、というどす黒い衝動を、理性で辛うじて押さえ込んだ。
(…何考えてるんだ、俺は。生き残れるかどうかの瀬戸際に…!)
ケリをつけた筈の心が揺らいでいる。容易く断ち切れるものではないということだろう。
リブラの心がアルベインに向いていると知っていて、なお口にせずにはいられなかったのだから。
(アルは俺にとっても親友だ。あいつの幸福を、俺が脅かす訳にはいかねぇ…!)
秘めたる思いが、いびつな覚悟となって纏わり付く。そんな不快な感覚を振り払って、パートは現実と対峙した。
(リブラを守る…! 他の誰でもない、俺自身のけじめの為にッ!)
言葉に出さなかったのは、この場にいない親友への、無意識の配慮だった。
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