序章 幼き日の約束

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「まぁ、その……オレも悪かったけどさ。オマエも言われたくらいで泣いてちゃダメだぞ」  指摘に対して少女は涙を拭いながら素直に頷き、ようやく泣き止んでくれるという安堵から、少年もため息を零しつつ笑みを浮かべた。 「そうそう、お前は笑ってろよ。オレだって、いつまでもお前の面倒を見ていられるとも限らないんだしさ」  別段何かを考えた上での発言という訳では無く、単に将来は何が起こるか分からないという思いをそのまま口にしただけの言葉。  しかしそれを聞いた少女の表情が凍りついたことで、少年は自らが失言をしたことに遅まきながら気付かされた。 「…………どこか、いっちゃうの?」  先程までの笑顔から一転して潤み出した瞳は、次の瞬間にも決壊しそうな程の涙目へと瞬時に変貌する。  人生経験などそうある筈も無い若輩の少年ではあるが、女の涙ほど手強いものは無いという事実だけは身に染みるほどに理解していた。   「いやいやいや、そういう意味じゃないって! いつまでも半人前じゃ駄目だってことさ」  慌てて取り繕ったその一言がどれだけの功を奏したかは不明だが、とりあえず本気で泣き出すという最悪の結末は首の皮一枚繋がる形で回避されたようである。  だが、一度抱いた恐怖心をすぐに拭い去れるほどの心の強さを持ち合わせていなかった少女は、不安顔をそのままに問い掛ける。 「……なれるかな、わたし」 「心配性だな、リブラは。大丈夫だよ、一人前になれるまでならオレが面倒みてやるから」    それは本心からの言葉であり、少年からすれば含むところなど何もない正直な気持ちであった。  何ということはない筈の発言であったからこそ、それを受け取った側の気持ちにまでも思いを巡らすこともない。  例えば、その言葉に明確な"期限"が設けられている、などといった点に少女が過剰に反応したなどということを、少年は理解できていなかった。 「…………その先は?」  俯いた少女からの指摘には、どこか責め立てるような響きが感じられる。  少年は困惑し、当然のように浮かんだ疑問点を指摘した。 「……は? 一人前になったら、別にオレが何かする必要ないだろ」  独り立ちした人間の世話を焼く必要はないだろうという考えから、特に深く考えずに告げた少年の一言。
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