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出来上がった冠に視線を奪われていた少女に、少年はその頭に冠をそっと乗せる。
「お前を嫌ったりはしないさ。それだけは間違いない」
それは迷いの中でも確かなものを、自分なりに伝えるためにひねり出した一言。
相手を泣かせたくは無い、悲しませたくはないという一心で紡いだものと言われては返す言葉もないだろうが、それでも今の少年にはそれ以上の言葉を思いつくことは出来なかった。
率直な思いを伝える行為が誤魔化しのように映ってしまう現実に胸を痛めながらも、少年は少女の反応を無言で待つ。
「……そっか」
その呟きが少年の言葉をその通りの意味として受け取ったものか、それとも曖昧な気持ちを覆い隠すための先延ばしと受け取ったものかは、当人にしか分からない。
良くも悪くも心根の正直過ぎる少年に、少女の気持ちを察するのは難題であった。
これ以上の気の利いた答えを返せるほどの人間であれば、そもそもここまで思い悩む必要は無い筈だと半ば自分に言い聞かせながら、少年は静かに言葉の続きを待つ。
一瞬とも永遠とも取れる沈黙を経て、少女は口を開いた。
「……私ね。アル君が好き」
心の準備や覚悟と言った前置きを無視した、それは肝心な不意打ちだった。
一切の打算なく率直な気持ちをまっすぐに告げることの難しさは、つい今しがた少年が痛感したことであり、相手がそれを躊躇なく実行してくるなどという展開は当然の如く、想定できるものではない。
ただでさえ動揺を抑えきれない心理状況だったこともあり、情けないことを自覚しつつもただ茫然と立ち尽くすことしか出来なかったのである。
そんな少年に追い打ちを掛けるように、少女は熱に浮かされた表情で必死に言葉を紡いだ。
「大好きだから、ずっと一緒がいい。これまでがそうだったし、これからもそうしたい」
まるで言葉をそのまま叩き付けられるような感覚を覚え、少年はの動揺は更に大きく、深いものへと変化していく。
単純な台詞であるが故にその意味は容易く理解へと至り、無意識の内に逃げ道を探してしまう自身の心を戒めるかのように心の奥深くへと突き刺さった。
強い感情を乗せた言葉とは"武器"になり得るのだと、少年は否応なく実感を伴った事実として認識する。
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