無価値なもの

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まだ、ほんの少し明るい空に、満月がぽっかりと浮かんでいた。 今日の月は一段と綺麗だ。 だけど私は、最高に絶望的な気分だった。 「はぁ…」と小さなため息をもらして、 私、樋口 真路花(まろか)は いつものように薄暗い階段をのぼっていた。 彼処に行けば少しは気が紛れるはず、そう思いながら。 彼処というのは、このビルの屋上だ。 廃れたのか、今まで誰にも出くわしたことはない。 屋上から見る月は格別で、 独りぼっちの夕ご飯を食べるのが、私の毎日の日課であり、唯一の楽しみになっている。 しかし、今日だけは いつもと違っていたんだ。 そんな事を知る由もなく、私はこの長く暗い階段を上り続けていた。
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