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ぱしゃんっ。
降りやまぬ雨が敷き詰めた水溜まりを嵩を増さんとするのとは違う音が響く。
雨を妨げる傘もなく天をただずっと、薄いレンズ越しに見渡している。
「何で…俺の周りはいつも紅く染まってる…?」
返事を求める訳もなくただ、虫の羽音よりも小さく嘆いた呟きは雨音にかき消される。
それと同時に彼の流す涙もまた、足元に拡がる紅く濁った水溜まりに消える。
「珍しいねぇ、猫が哭いてるよ。」
雨音のせいか気配も足音もしなかったのか彼は無防備にも丸腰で振り返る。
「…マグダラ……」
「お久しぶり」
振り返った先には深いスリットの入った紫のドレスと黒いガーターベルトに身を包み、ふんわりとしたハニーゴールドの髪に大きなアメジストの眸。
彼女の出で立ちには見覚えがあった。
同じ『怪盗』、なんていう職業だったから。
(しまった。油断したな、気配消すのを忘れるうえに、気配に気付けないなんて…)
「アンタらしくないわ。」
「……っ…」
図星をつかれたせいか押し黙ることしかできない。
「一週間前のミッションから連絡は無いわ、実際会ってみたら辺りは血だらけ。ねぇ、一体どうしちゃった訳?」
「………別に。たかが一週間連絡しなかっただけだし。…周りの奴等は襲ってきたから撃っただけ。死んでないよ………多分な。」
「多分って…」
何時からだったか。
彼から笑顔が消え、ただ義務的に動き感情を露にしなくなったのは。
――それは、今から約三前のこと……。
* * *
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