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これはとある日――
芹沢の始末書に日々追われ、疲れ切っていた土方に起きた悲劇である。
壬生浪士組の副長を務める土方歳三は、いつも以上に眉間に皺を寄せ、文机に積まれた書簡の山に目を移し深々と息を吐いた。
「……減るどころか増えてやがる」
チッと舌打ちをし土方は苦々しそうに呟き、立て掛けていた煙管に手を伸ばす。
文机にある書簡は全て芹沢が起こした騒動の始末書である。酒が入ると人が変わったように暴れ、金銭や女を要求する芹沢の非情な行いに土方はほとほと困り果てていた。
芹沢のお陰で壬生浪士組の名は知れ渡る事になったが、蔑みの眼差しが大半であり前途多難。信用は殆どないと言っていいだろう。
見知らぬ土地での生活に不安もあるが、それ以上に組の存続も危うく心労が取れることはない。土方の苛立ちは日に日に増していた。
(……花街に行きゃあ、吐き出せるんだがな。生憎そんな余裕、今はねぇ)
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