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歌姫と夢
久しぶりに、満たされていた筈の忌まわしい記憶が蘇った。瞼の裏に張り付いた夢の中の演奏会では相変わらず、歌姫が歌っていた。ほんの少し前の出来事だった筈なのに、妙に遠い過去のよう。目覚めは最悪だった。
ふと笛吹きは思う。あんなにつまらない演奏会だっただろうか。あんなに歌姫は寂しそうに歌っていただろうか。思考を巡らしても笛吹きは思い出せやしなかった。
当たり前だ。
笛吹きは、今まで一度だって歌姫が歌っているところを見なかったから。
それで良かったから。それが良かったから。なのにどういうわけか、笛吹きは無性にやるせなくなった。
ただ、
(あいつの歌声が聞きたい)
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