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歌姫と幸福
あるところに、歌姫と笛吹きがおりました。二人は共に旅をしながら、気まぐれに笛を奏でて歌声を合わせておりました。歌姫の歌はたいそう美しく、聴く人々の心を必ず満たしてくれるものでしたが、歌姫は決して、自分から歌うことをしませんでした。笛吹きの笛の音はたいそう柔らかで、聴く人々の心を必ず優しくしてくれるものでしたが、笛吹きは決して、それをひけらかすようなことはしませんでした。歌姫はただ笛吹きの演奏が聞こえれば歌いました。笛吹きはただ歌姫の歌声が聞きたくなれば演奏しました。二人は、二人の為だけにその歌声を、音色を、響かせました。それは何よりも幸せな調和を生み出すのです。誰一人それを知る人はいませんでしたが、歌姫も笛吹きもそんなことは全く気にしませんでした。
二人はとても幸せそうに笑えるのですから。
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