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歌姫と涙
まるで暗雲が立ち込めているかのような、そんな寂しさが覆っている。笛吹きは変わらず造りものの優しさを奏でるし、聴衆も変わらず聞き惚れている。けれども歌姫は、確かにいつも通りの柔らかな歌声なのだけれど、けれども。
「なんだか寂しいね」
「心を打ちつけるね」
「悲しいね」
「嗚呼、悲しいね」
気付けば聴衆は皆涙を流していた。静かだった。拍手さえ起きなかった。ただ、全てを覆うような悲しさが会場を満たした。
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