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歌姫と傷跡
「なんだ、あの歌は」
「わたしはいつも通りに」
「そんな筈がない!」
「どうして怒っているの」
「ロクに稼げなかったからに決まっているだろう!」
「かせぐ?」
「嗚呼そうさ、お前は大事な仕事道具なんだよ!」
「仕事道具……?」
「お前の歌は素晴らしい。素晴らしいからこそ金が入る。ああくそ、なのにどうしてこう面倒ばかり!!」
「ひどいわ、そんなの」
はっとした笛吹きが言葉を吐き出すのを止めた。そうして初めて笛吹きは歌姫を見る。歌姫の頬をはらりはらりと涙が流れる。
静寂が、とても痛い。
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