歌姫と傷跡

1/1
前へ
/15ページ
次へ

歌姫と傷跡

「なんだ、あの歌は」 「わたしはいつも通りに」 「そんな筈がない!」 「どうして怒っているの」 「ロクに稼げなかったからに決まっているだろう!」 「かせぐ?」 「嗚呼そうさ、お前は大事な仕事道具なんだよ!」 「仕事道具……?」 「お前の歌は素晴らしい。素晴らしいからこそ金が入る。ああくそ、なのにどうしてこう面倒ばかり!!」 「ひどいわ、そんなの」  はっとした笛吹きが言葉を吐き出すのを止めた。そうして初めて笛吹きは歌姫を見る。歌姫の頬をはらりはらりと涙が流れる。  静寂が、とても痛い。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加