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歌姫と旅路
笛吹きは演奏会の一切を止めて、昔のように旅をしながら気まぐれに笛を吹いた。壮大な舞台上で奏でられるよりは余程素朴だけれど、本当はそれが一番似合っていることを笛吹きは知っていた。自分は地位には全く興味が無かったし、稼げるだけ稼いでしまった今はもう、なんだかお金稼ぎさえもつまらなくなってしまった。かつての聴衆は次第に笛吹きのことを忘れていった。あんなに素晴らしいと言われ続けた演奏も、あっという間に人々の心から消えてしまった。造りものの寿命は短いもんだ、そう笛吹きは嗤う。自嘲。
「わたしを捨てないのね」
そうだ、歌姫は。歌姫だけはずっと笛吹きの後をついていった。歌姫は歌わないけれど、笛吹きが時折奏でる優しい笛の音を嬉しそうに聞いていた。
「お前こそ、俺を見限らないのか」
「だって、わたしにはあなたが全てだもの」
何かがゆっくり変わっていく。
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