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甲雅の里の深い山奥。
滅多に人の来ることのない山奥に、音もたてずに山を登る二人の男の影があった。
道とは呼べない山道を黙々と歩き続ける二人の男の耳に、高く細い泣き声がとどく。
「泣き声…?赤子の様ですが、どうしますか?」
二人の男のうち、後ろを歩いていた若い男が前を歩く白髪の男に声をかける。
「様子を見に行く。」
短く答えた白髪の男が鳴き声のする方へ草木をかき分けて進むと、一本の木の根本に収まるように捨て置かれた珍しい銀の髪の赤子を見つけた。
「このような山奥に赤子とは…。珍しいこともあるものだ。」
そう言って赤子を拾い上げる白髪の男の側で、若い男は赤子と白髪の男を静かに見つめる。
「その赤子、どうするおつもりですか?」
「私の子にしよう。名は何がよいか…。」
安心したのか泣き止んだ赤子を優しい目で見ながら、白髪の男の何か考えるときの癖で目を瞑る。
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