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月が雲に隠れた街の中。
ベージュを基調とした博物館が、ヘリコプターや設備のライトに照らされていた。
更に赤の光をぐるぐると回して警告を促すパトカーと正義の着衣を纏った人間───警官が囲っている。尋常ではない事態に空気が堅く、重いものになっていた。
緊張と警戒。そして、この状況で入る筈の無い『期待』で形成された空気が、突如として砕け散る。
「じゃ、『クロムシルバー』は貰ってくね~♪」
ガラスが粉々に割れる音と共に、この空気とは場違いな男の声が放たれた。
それは陽気で実に楽しそうだった。
途端、建物の中かうーうーと警報がけたたましく鳴り出し、罵声と怒声の混じった声が騒ぎ出す。それに倣うように外で停車していたパトカーが一気にサイレンをたいた。
空気を振るわせた音が警戒を高めさせる。
「あっはは~♪ 壮観、壮観! 実に絶景だ!!」
その声の主は短い銀髪に整った顔立ちで黒縁眼鏡をかけていた。
いかにも知的で有ることを示すかのようにブルーのジャケットを纏った中は黒いワイシャツ。白のネクタイを締め、風に煽られないようにネクタイピンで留めていた。彼は建物で最も高い所に立っていた。しかし屋上と言うには正しくない。そこは建物であれ人が立つような場所では無いからだ。
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