37人が本棚に入れています
本棚に追加
「このぉっ! 待てっ!!」
その男を追うように、一人の人間が自らの肉体を駆使して命綱無しでよじ登って来た。
その建物の特徴ともいえる『球体部分の屋根の上』を。
帽子からコート、パンツまで茶。唯一、中のワイシャツが白だった。胸には警察官の証である紋章が貼りついている。
更に強い風が吹いているにも関わらず、被っている帽子を押さえながら立ってきた。
陽気に笑っていた男の顔が引き攣る。
「ちょっと…此処まで追ってくるなんてやり過ぎじゃない?」
「やり過ぎも何もない! 貴様を捕まえるまではな、カイル・アドヴァーン!!」
上からヘリコプターが向き合っている二人をライトで照らしつける。そして、そのヘリコプターのドアが開き、中からカメラを構えた人間が身を出した。
刑事は懐から拳銃を取り出すと、カイル・アドヴァーンと呼んだ男に向かって銃口を向けた。
しかし、この刑事の登場時とは打って変わってカイルはにやりと口元を笑わせた。
「だーめ! 渡さないよ、このコインはね」
カイルも同じく、懐から本日の獲物であるシルバーのコインを取り出した。チラつかせて、指で挟みながら手の甲で弄ぶ。
「これには、『まだ続き』があるんだ」
そのコインを親指に乗せて弾き上げると、高らかな金属音を鳴らして掌の中へ収める。
そして、胸元に有るネクタイピンをかちりと『押した』。
最初のコメントを投稿しよう!