2.鮮血と虐殺の日曜日~sunday,bloody sunday~

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ハインツは焦っていた。 かつてはきちんと整えられた灰白色の髪と見事な顎鬚は見る者にとって尊敬と畏怖の象徴であった。 それが今はほぼ白髪となり、身だしなみも乱れ、かつての立派な姿は見る陰も無い。 それもその筈。 地球統一国家の終身総統になるという彼の野望が費えようとしているのだから。 軍事力に於いて自国より遥かに劣っている筈だった、残りの二国がまさかこんな急に戦力を整えるとは思っていなかったのだ。 そして、まさかあの二人の博士が隠し玉を持っており、しかもその力を以て奴等に味方するとは! 「何故だ…何処で計算が狂ったのだ?」 悔し紛れに壁を殴り付けるハインツ。 そんな事をしても劣勢が挽回される訳でもないのに。 「しかし…それにしても随分と静かだな?」 もうそろそろ給仕の者が昼食を報せてくる時間なのに。 ハインツはゆっくりとドアを開けて、外の様子を伺った。 ツン、と鉄臭い匂いが廊下に漂っている。 この匂いは自分が独裁者となる時に随分と嗅いだ匂いだ。 血の匂い。 「な…何が…起こったのだ?」 ハインツは部屋に戻り、警備室に内線を入れる。 「おい!一体どういう事だ!この血の匂いは…」 『ほーるざなーいふ、ぶらでぃとぅざすろーとおぶらーぶ』 電話越しに陽気で甲高い女性の歌声が聞こえる。 「な…貴様は誰だ!そこで何をしている!」 『ゆーろぱー、ざげーつおぶへーる…邪魔しないでよオッさん。今気分良く殺っちゃってるトコなんだからさあ』 ハインツは屋敷から逃げるべきだった。 だが、好奇心が彼という猫を殺した。 ハインツは銃を構えながらゆっくりと警備室へと向かった。 そして、警備室のドアを開けると―― 「バーーーーカ」 ニンマリと笑みを浮かべた猫耳のアクセサリーを付けた血だらけの女が立っていた。 そして―― ハインツは後頭部に鈍痛を感じた瞬間、気を失ってしまった。 「ちゅーさー!ちゅーさー!馬鹿なドブ鼠の親分を捕らえましたよー!褒めてー!」 猫耳の女の呼び声に応えるかの様に警備室のモニターに一人の男が映る。 キツネ色の癖の強い髪にキツネ目の長身細面の男。 側頭部にはキツネの面を付けている。
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