東條一期

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見つかった。 2つの漆黒の瞳が僕を捉える。 まずい まずい 逃げなきゃ 急いでその場から 姿を消した。 不安に体が冷たくなる。 見つかってはいけないのに。 真実を知られては いけないのに。 最後の1人だった。 暗い森にすむ、獣の少女。 そっと贈り物をおいて、 すぐにその場から遠ざかり、 仕事を終えるつもりだった。 「帰ってきてくれたの?」 少女の声が 繰り返し現れる。 暗い闇の中から 微かに聴こえた声。 「帰ってきてくれたの? 帰ってきてくれたの? 嬉しいなぁ… ―――――。」 すぐにその場を去ったから よく覚えていなかった。 希望があるなら、 少女は僕を勘違いして くれたかもしれない。 お願いだ。 お願いだ。 そうであってくれ… 朝になっても薄暗い森の 大木の下で少女が箱を持ち 小さく呟く。 「今日、私は希望をみたのよ」 子供に希望を与える代わりに、 どこまでも非情なこの役目。 どうか、あの少女が 幸せでありますように .
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