杜若

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とても鬼には見えない。 美しいドレスを身に纏い、 それに相応した上品なしぐさ、 彼女が笑うとその優しさに 思わず安心感を覚えた。 ドレスは日本独特の作りに なっている。 襟元は和服のような 構造になっているが、 足元に行くに従って フリルが付いて、洋のドレスに 近い。 日本人なら黒髪、と 言いたいところだが、彼女の 艶のある金髪も、 なかなか美しかった。 ここで出会うには あまりにも勿体ない。 そんな女性だった。 「発砲許可!!」 そう叫んでも、誰も 彼女を撃たなかった。 いや、撃てなかった。 撃つ余裕などない。 銃を構えた瞬間に、 彼女は剣を横に振る。 教会の壁は塗り直したかの ように綺麗に赤になっていた。 「貴様で最後だ。」 彼女が剣に付いた赤を払う。 「ごめんなさい。これが私めの 使命なのでございます。」 視界の隅で見えた彼女の 涙も、また美しかった。 きっと、笑顔は もっと美しいのだろう。 そんな、美しい殺人鬼。 .
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