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その部屋の中は異様な光景だった。
ガラスケースの中には、背中に人間の耳が生えたマウス。
人間の皮膚のようにツルツルで毛の生えていない豚。
四本足のニワトリ。
極めつけは、一つ目の大きな蛙。
その瞳には瞼があり、ちゃんとまつ毛まで生えそろっている。
時おり瞬きをするその大きな瞳はまるで美女のウインクのように艶(なまめ)かしかった。
少女は一番奥の生体保護カプセルの中で、何かを待っていた。
保護溶液の中で静かに目を閉じ膝を抱え、周囲の音を全て聞き分けている。
その耳は、カプセルの外だけでなく、コンクリートと鉛で構築された隣の部屋、彼女には遥か先の部屋の音まで聞き取る事ができた。
長い黒髪がゆらゆらしている。
その一本一本に独立した意思がある様に液体の流れに逆らって蠢いていた。
もうすぐここから出れる。
ここ数日、彼女はそんな予感を胸の奥で感じ取っていた。
あと少し、あと少しで、この退屈な空間から開放される。
その時が来るまで、もう少し眠る事にした。
薄っすらと開きかけた目を彼女はもう一度、かたく閉じた。
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