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師走も中旬を過ぎる頃、風も無く澄んだ大気が大地に霜を降らせ、枯れた田土は、心なしか白々と朝日に照り映えている。
その白く凍える大地を踏んで、陸続と連なり城下に吸い込まれてゆく、兵らの藁靴や貫(つらぬ)きが霜柱を踏み崩す、
ザクッザクッ
という足音が、山腹に設けられた廓の中まで聞こえてくる。
身分の低い足軽等は、寒気を凌ぐために藁で編んだ靴を穿き、武士達は、貫きと呼ばれる革靴を穿く。
もっとも合戦が頻発し、それに対応するため、源平以来の大鎧が廃れ、当世具足と呼ばれる機能的な鎧が通用されているこの時代では、戦場で貫きが穿かれることは減って、専ら防寒具の類と化していた。
城下では、応対役の武士が、参着した氏族の名を呼び上げ、佑筆(ゆうひつ)が、それを到着目録に記している。
何やら結婚式や葬式の受付じみているが、皆真剣そのものといった表情である。
出陣までにはまだ日数があるのだが、皆、少しでも早く到着目録に我が名を記されたいのだ。
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