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応召順位が大名家への忠勤の目安にされ、目録には、参集の順位と応召場所までの距離が記録されるのである。
吉川元春は、廓の一角に凝然と立ち、凍った大地に寒々と響く足音と、対照を為す応対役の熱気が篭る声を、不思議な感覚で聞いていた。
「何をお考えですか?」
何時の間に来たのか、傍らに立つ宍戸隆家(ししどたかいえ)が尋ねた。
「お気を患わせるようなことでも御座ましょうや?」
「ほぅ、そんな顔に見えたか?」
元春は、笑いながら反問した。
隆家は、ついつられたように笑ってしまうが、
「はい、随分厳しき気色に御座います。」
と、その笑顔に反して気遣わしげである。
「何、大したことではない。」
元春は城下に目を移した。
「それより、何時聞いても良いものだな。」
と、もう一度耳をすませた。
キンと澄み渡った冬の大気に、武士達の放つ熱気が、独特の緊張感を生み出している。
未だ戦さが動き出す前の、ピンッと張り詰めた弓弦の如き緊張感が、元春は好きだった。
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