久家

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ところが、元春の前に引き出された鹿介は、仕官を勧める元春に対して、 貴殿は、もし、毛利家が滅びたならば、簡単に仰ぐ旗を替えるのか… と問い返してきたのだ。 あの肉が削げ落ちて骨立した頬の上で、爛々と光る瞳の奥に、垣間見えた敵愾心の正体が何であったのか、元春は、今にして初めて気が付いたのである。 あの日、縄目の恥辱を被りながら、あの若者は、 もし来たる日に、俺が、今お前の居る場所に座って、お前に同じことを問うたなら、お前は何と答えるのか と、その覚悟を問うたのだ。 儂は、その問い掛けに答えることが出来なんだ… おのれ、小癪な小僧め…! 敗軍の将が覇者の軍を嗤(わら)うか。 参集の兵を見詰める元春の目が殺気を帯びる。 その様子を伺い見ていた隆家は、 「鹿は、たらの芽を喰ろうて水無月(6月)には角を落とすそうですな。」 ととぼけた調子で言う。 鹿は、たらの木の芽を食べて6月に角を落とすとの俗説があって、広く信じられていた。
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