第1章 ‐久住 春樹‐

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   ゆっくりと近付いて目の前で見下ろせ  ば、女達の俯いた後頭部だけが視界に  入る。  「顔あげろ」  「もういいって」  「諭吉は黙ってろ!」  被害にあった本人がしれっとしている  事にもイライラして、諭吉にさえもキ  ツく当たってしまう。  人で溢れた教室も廊下も、誰一人とし  て沈黙を破らない。響くのは、俺と諭  吉の声だけ。  「顔あげろっつってんだろ」  そう言って真ん中にいる女の顎を掴も  うとした俺の腕は、いきなり後ろから  かかった強い力で阻止された。
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