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桜がどこもかしこも咲く季節。まるで雨のように桜の花びらが降り注ぐ坂道を、僕はせわしなく歩いていた。息を切らしながら、足早に坂を登っていくけれど、周りには、僕のような制服姿の人影は見えない。ただただ桃色の並木が坂の上まで続いてるだけだった。
「……完全に遅刻だこれ」
不安に掻き立てながらも、もくもくと足を進めていく。ここであきらめてもどうしようもない。初めて通る道だけあって、来る途中で迷ってしまったのはしかたないとしても、入学初日でさぼりっというのもいただけないだろう。ここは踏ん張って頑張るしかないか。
「とは言ってもなぁ……どこまで続くんだこの坂道…」
実はかれこれ、この坂のを見つけて、この道が今、現在自分が行こうとしている学園につながっていると分かってから十分ぐらい。ずっとこの坂道を上っている。ずっとだ。さっきから永遠とこの桜並木の横を歩いているような気がしてならないぐらい、景色が変わっていない。
いつふもとにつくのだろう。そう思いながら、半ばもうあきらめて帰りたいぐらい、心が折れかかるまでそう感じ始めた時。
いきなり、突風が吹いた。
「うおっ…!」
ゆらゆらと振っていた桜の花びらが、その風で急激に舞い上がる。突然に吹いたその風は、地面に溜まっていた桜も巻き上げ、まるでさざ波のように道に広がった。そしてその風が去ると、ゆっくりとまた、落ちていった。
そんな幻想的な光景に圧倒されながら、思わず呆然と足を止めていると。
「あれ?まだ登校中の人いたんだっ」
前方から、なにやらはつらつな声がかかった。未だに元気に舞うその桜の花びらの中から、ひとりの女子が歩いてくる。
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