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【サイトーとカゲフミ】
「息苦しい」
「煙草か」
「ちがう」
「ああ、そうかい」
休憩時間。猫の着ぐるみ、頭だけを脱いでサイトーは一服していた。セーラー服を優等生よろしく丁寧に着こなして、カゲフミはコンクリートの上に体育座り。サイトーは缶珈琲を飲む。カゲフミに奢ってあげるだとか、そんな優しさを彼は持ち合わせちゃいない。だからサイトーだけが缶珈琲を飲む。
「息苦しい」
死んでしまいそうな声だった。カゲフミがスカートの裾をぎゅっと握りしめるのをちらりと見て、サイトーは汚い煙を静かに吐き出した。休憩時間はあと少しで終わる。
「なら、呼吸なんて止めちまえ」
サイトーは煙草を放り投げて、猫の着ぐるみの頭を手に取った。チャイムの音、つまりは休憩時間の終わりの音。飲みきれない缶珈琲もコンクリートに置きっぱなしで、サイトーは再び猫になった。風船を持ってそのままゆらゆらと歩き去っていった。飲み残しの缶珈琲を、カゲフミは一口だけ飲んで、溶けるように消えて行った。
呼吸は楽じゃない。のだ。
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