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梅雨。穏やかな陽射しが続く春と、輝く太陽が照り付ける夏との間の変わり目の時期。
ジメジメとした気候と高確率で降る雨に多くの人が嫌悪感を抱く。
しかし、作物達にはこれから大きく育つための恵みを与える。
とは言うものの田畑の無い都会にはそんな恵み云々は関係なく、ただただ毎日うんざりした日々が続くのであった。
──ここ、斐野坂(ひのざか)町もそう。
『町』という名称とは相反し、高層ビルが立ち並び他国の人も行き交う。
海沿いにあるという事で貿易も行われている商業都市である。
しかし、深夜にもなれば夜遅くになっていることと、ジメジメとした気候から逃げるかのように殆どの人が帰宅し、人足は疎らなものになっている。
その中。人気のない小道を息を切らしながら走っている若者がいた。何かから逃げるかのように。
「ッ!!何なんだよ……!」
その若者の体の至る所に血がついていた。
後ろを振り返り、誰もいないことを確認すると、小道から通じる路地裏へと曲がって闇に消えて行った。
「……」
先程の大通り。誰もいなかった筈なのに、そこには一人の不気味な青年が立っていた。
黒のジャケットを羽織っていて、顔には血が付着している。
その青年の眼は深く冷たく。ただその若者が曲がって行った道を見つめていた。
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