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有希は黒縁メガネの下で大きく瞳を見開き、
ぱかっと開いた口は閉じることも、声を出すことも出来ず。
脈打つ鼓動だけがやけにリアルで、
それがなんだか不整脈のように早くなっていくのを感じ、
気が付くと、せっかく拾い上げた怪しい冊子どもは、再び腕から滑り落ち、全てぶちまけていた。
バサバサと、
大量の鳩が飛び立つ羽音にも似たその音とともに。
森本有希、26歳。
年齢イコール彼女居ない歴。
職業システムエンジニア兼、企業スパイ的ハッカー。
怪しさ100億%
愛読書は「なかよし」
好きなテレビ番組は「プリキュア」
全身どっぷり美少女系アニメにはまった、
オタクの中のオタク。
一生オタクとして生きていこうと決めていたはずなのに…
3次元なんぞに萌えを感じる事はあり得ないと思っていたはずなのに!!!
有希の中で何かが弾けとんだ。
飛びまくった。
飛びすぎて、もう砕け散ってしまったかもしれない。
真っ白で、
まっさらで、
なんていうか…
表現しがたい何かがむくむくと芽をだしはじめ……
「……えっと、あの………だ、大丈夫………ですか?」
せっかく拾ってあげたのに、
どうした事か再び全てをばらまいてしまった有希を見て、目の前の天使(そうこれはもう天使と呼ぶに等しいであろう。っていうかむしろ神)は、
再びいそいそと冊子を拾い集めた。
嫌な顔ひとつせず、真っ白な指先で。
そうして全てを再び拾い集めると、
ぽんぽんっと軽く叩いて埃を払ってくれた。
「そうだ、ちょっと待ってて下さいね?」
笑顔とともに向けられたその言葉が、
有希に通じているのかいないのか…
天使は冊子を両手に抱えたまま立ち上がると、
丁度すぐ横にある店の中へと消えていった。
そんな姿をぽーっと見つめ、
有希はもう骨抜き状態になっていた。
両手で破れてびりびりになった紙袋を抱きしめ、
なんとかふらふらと立ち上がると、
天使の消えていった店の中を覗き込む。
『ペットショップ わんにゃんはうす』
駅から自宅マンションまでの通過点にすぎないこの商店街に、こんなお店があったとは今までまったく知らなかった。
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