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ふいに、ルティアナの顔が曇る。
「大丈夫。ユーリ博士はルティアナさんには弱いから」
サシャは、ルティアナに優しく返した。
「本当です?」
「うん。見てきた私が言うんだから、間違いないよ」
「――そう、ですわね。サシャが言うなら大丈夫ですわよね」
サシャは、大きく頷いた。
その後、ルティアナも会合とやらに出掛けてサシャはひとりになる。
与えられた部屋は、サシャには広すぎた。ベッドに横になり、ユーリから借りた本を読む。十八歳のサシャが読むには難しい内容の本だ。それでも、今の政治や経済の流れが、わかりやすく書いてあるとユーリから聞いていたが、読む速度は、鈍速だった。次第に、瞼が落ちてくる。意識を失った彼女を引き戻したのは、ポケメル(小型連絡掲示板素子)の受信音だった。
朝も早かった為に、頭に酸素が回らない。寝ぼけ眼で、画面を開けば、カリンからのメルが届いていた。
「帰れなくなった――?」
画面の文字を復唱して、サシャは首を傾げる。イリスが壊れやすい情報の箱であることは未来と変わりない。ただ、未来のイリスは、ユーリだけでなく誰でも操作できるように改良はされている。今は、サシャが生まれる十年前だ。
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