stage 1

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 なにを話していたのだろう。頭の中には、朧気な残像と「来るな」とはねのけられた記憶があるだけだった。  二人が消えた後には、空っぽの部屋があっただけで、機材の類は、木っ端微塵となって床に転がっていた。  その後の一年間は、スピカの家で世話になった。ただ、カリンの子供と折り合いが悪くて、窮屈な生活をしていた。  今、対に座るソラが、声を掛けてきたのは、ぼんやりと島を抜け出すことを考えていた時だと思う。  確か、死ぬのかと聞かれた。だから、島を出たいと率直に告げた。その時、ソラは、口許を弛めて簡単に、その願いを叶えてくれた。飛ばされた先は、時間軸が異なったが、「帰りたくなったら帰ってこいよ」と送り出してくれたソラの言葉には、救われている。然し、今のソラはそれを知らないのだろう。なにせ、ずっと後の話だ。サシャもそれを別に伝える気はなかった。伝えることで、何かが崩れてしまうことを恐れているのが一番の原因だろう。  馬車が、イリス管理棟の中庭に泊まる。サシャとソラは、馭者に代金を渡して、中に入ろうとしたが、鍵が掛かっていて入れなかった。 「メンテのときはいつもだ。後ろから入ろう。あっちは壊しても大丈夫だから」
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