始まり

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……人は 親を選んで産まれるという。 かなり大きくなるまで 私自身母親はまだしも、 こんな父親を選ぶ訳がない と考えていたが 後々 これに対しても答えが 出るのである。 今から40年以上前になるが 私はこの世に生をなす。場所は 北海道某市… 飲んだくれの父と 真面目な母の長女だった。   生活は常に厳しかった。 理由はただ一つである。 産まれてからの記憶は ハイハイしてる頃からある カーペットの柄と椅子の足が 顔のそばでよく見える。   ある日 頭を少し上にあげると 茶ダンスのガラスケースの部分に 赤い熊のぬいぐるみがあった。   「アレに触りたい」   私は椅子にしがみつき 手を伸ばし熊を指差した   「触りたいよ」   そう言ったつもりだったが  「アー!ダーダー!」   みたいな事しか言えなかったのを覚えてる。   3歳位の時やっと この熊に触らせてもらった。 母にハイハイしてる時 触らせて貰えなくて悔しかったと話したが そんな事覚えてる訳無いでしょ! 汚されたくないから隠して置いたんだよ と言われる。   イヤ覚えてるんですよ 母さん…   ハイハイしてた頃 父の知り合いから我が家は 雌猫を一匹貰った。 動く私が面白くてしょうがない若い雌猫は 私がハイハイする度 お尻をフリフリして 私に飛び掛かってきた。   猫も相手が子供だって解るし 少し自分より下にみると馬鹿にして飛び付いたり じゃれたりする。   しかし私は まだ産まれて間もない乳飲み子、この獣が恐くて恐くて 飛び付かれる度に 泣いて助けを呼んだ。   あまりに泣くので結局その雌猫は返品されたが、その事も後から話すと   覚えてる訳無いよと否定される。 いえいえ全部覚えています。   父がまだ歩けない私を 飲み屋に抱っこして連れて行き 飲みつぶれて 座敷にずっと放置されたのも覚えているんです母さん。   この記憶 残ってるのはおかしい事なんだろうが 私にすれば 普通の事だった。
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