鳥かごから消えたひな鳥

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「つまらない」 イリスは深くため息をつき、枕に顔をうずめる。 高価そうな調度品に囲まれた部屋は、 無機質な表情しか見せてはくれない。 クリスタルをあしらったシャンデリアはオレンジの光を受け、確かに綺麗だ。 だがそんなもの、 鳥かごを飾り付けてお城に見立てたようなものだ。 どの部屋にも窓は無く、空を見ることが叶わない。 無邪気に駆け回っていたあの大地を 楽しげに眺めていたあの大空を 裕福ではないが自由だったあの日々を また見たい。 「ね、少しだけでいいから外に出させてよ」 イリスは顔を枕から離し、世話役の男性を見つめる。 「どうせ今日もあのガキが来るのでしょう? それまで辛抱なさってください」 「もう!ガキじゃなくてシエル! ひな鳥はいずれ巣立つものよ」 「…そうですね、 ひな鳥はいずれ巣立ちます。 そんなに焦らずとも、近いうちにあなたの望みは叶いますよ。」 世話役は口端をつり上げて笑う。 そう、笑っているのは口だけで、目は笑っていないのだ。 最後の言葉が引っかかり、真意を解こうとするべく覗く瞳からはどんな意図があるのか解らない。 「…それは…どういうこと…?」 「なんでもありませんよ。 そんなことより、 ティータイムにしませんか? 良い茶葉が手に入ったのですよ」 世話役はにっこり微笑むと、 イリスの返事も聞かずにティータイムのセットをし始める。 「…仕方ないわね…レイドは頑固よね…」 『絶対に明かさない』 そう暗意に言われているような気がした。 詮索はあきらめて、レイドの淹れてくれたミントティーをすする。 「ええ、あなた譲りですよ。 詮索しないでいただけるのですね。 いい子です」 レイドは満足げな笑顔を浮かべる。 今日はやけにレイドの言動が気になるが、彼が答えてくれるはずもないと分かっているのでとりあえず頭の隅にしまい込むことにした。 「(ああ…誰か私をこの広くて狭い鳥かごから連れ出してくれないかな…)」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加