第1話

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  「……め、……あやめ!起きろ!遅刻すんぞ」 「も……少し」 男は口に手を当て、夢心地の女の子を起こそうと声をかける。 が、ふかふかの布団で眠るあやめには、効果が無い。 「ん~、そんな可愛い顔で言われると、お兄ちゃん弱いんだよなぁ」 寝返りをうち、幸せな笑顔に吊られつい微笑む兄、圭は腕組をする。 その姿はまるで雑誌から飛び出たモデルのようだ。 それもそのはず、圭は学生時代から入社するまで、現在勤めている雑誌の専属モデルをしていた。 現役を引退した今でも、根強い人気は続いている。 「ん~……困ったなぁ。 それじゃ、奥の手だ」 言葉と反して、圭の顔は楽しそうに笑いを含む。 あやめを起こさぬよう、笑い声を噛み殺し長身を極力小さく丸める。
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