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『あの…どこへ行くんですか?』
『地下鉄でも良かったんだけどねぇ。私、地下鉄好きじゃないから。ほら、もう着くわよ』
僕はオカマのおっさんとタクシーに乗っていた。多分10分も乗っていない。タクシーは大通り沿いの、お洒落な雰囲気の建物の前に停まった。
『ここ…美容院?』
『そう。美容院よ。ほら、さっさと降りて!』
…そしてタクシーは走り去った。
二階建ての、全てが真白い美容院。一階から二階へと、緩いカーブを描きながら広々とした階段が延び、その先に美容院の玄関扉がある。玄関扉の横はガラス壁で、そこから店内の照明の明かりが、眩しいほど路上に注いでいる。
一階は駐車場。車が6台の2列…12台も駐車できるスペース。今は車5台が駐車中。
『何してんの?ほら、さっさと階段を上がりなさいよ』
『あ…はい』
階段を上がっていくと、徐々にガラス壁の向こう…若い4人の女性スタッフらが、お客様である女の子達の髪を忙しそうにカットしたり、セットしているのが見えてくる。
玄関扉にお店の名前…これフランス語?意味も、読むこともできなかった。
背後から僕に追い付いたおっさんが、美容院の扉を勢い良く開ける。
『アンナちゃん、こんばんは』
『あ…菊江さん。こんばんは…?』
おっさんは、カウンターに立って女の子からカット料金を受け取って、それをレジに片付けていた髪の長い綺麗なお姉さんに話掛けていた。
『アンナさん、ありがとーう』
『ありがとうございました。また宜しくね』
僕をジロリと見、その女の子は扉を開けて出ていった。
なんか…この店内…凄くいい香りがする…。
僕は思わず、気付かれないように静かに深呼吸した。
『…この前ね、私の同業仲間の一人が、お店を改装して《男の娘》のお店、始めたって言ったじゃない?』
『あぁ…うん。ちょ、ちょっと待って!』
カウンターから出てきたお姉さん店員…てか、なんかこのお店の一番偉い人っぽい。僕の黒ぶちと違って、凄くお洒落な眼鏡を掛けている。
ってか脚が凄い。長くて細くて…めっちゃくちゃ綺麗…。
おっさんと、そのアンナさんって人とが会話してる間、僕は時間を持て余していたので、ちょっと美容院の店内を見回してみた。
…白を基調とした、凄く清潔感のあるモダンな雰囲気の店内だ…。
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