女装と復讐‐躍進編‐

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そして僕らは特設ステージ横に設置された、やっぱり《新井区》と記された、たくさんの屋形テントの下へと入った。 『啓介くーん、やっほー』 『やっと来た…お疲れ』 啓介さんは僕を見た。 『金魚…緊張とかしてないか?』 『はい。大丈夫です』 『そっか。それは良かった』 啓介さん越しに、向こうの《特設ステージ運営担当員専用屋形テント》のほうで、手招きする詩織の姿が目に入った。 『あ…ちょっと啓介さん、すみません』 『鈴ちゃん、こんにちは。お疲れ様』 『こんにちは。わぁ…金魚ちゃんもカッコいいね!男装。凄く似合ってる』 『ありがとう』 『じゃあ…早速だけど、本題に入るね…』 …本題? 急に笑顔が消え、真面目な表情に変わった鈴ちゃん。 『実はね…30分早く来てもらったのは…ただ30分繰り上がった、ってだけじゃないの…』 『?』 『?』 鈴ちゃんは僕らに手のひらを小さく合わせて見せた。 『詩織ちゃん、金魚ちゃん…ごめんなさい。もしできるなら…ステージでの出演時間…延長してもらえないかな…。もう二人にしか、こんな無理…お願いできないの…』 『えっ…延長!?』 僕と詩織は、お互いの顔を見合った。 『…鈴ちゃんのお願いだから私達、考えてはみるけどぉ…』 『私達だけ出演時間を延長して、他の出演グループから苦情とか出たりしないかなぁ…』そう心配する詩織。 鈴ちゃんは、もう他のグループには手当たり次第に訊いたらしい。けど《延長に対応できるだけの演奏曲数の準備がない》などの理由で、次々と延長拒否…そして最後に、僕らにこの延長の依頼が回ってきたらしい。 『…演奏できる楽曲数の準備は大丈夫かなぁ…?』 『うん。そこは全然心配しなくても大丈夫よ。鈴ちゃん』 僕らは貸しスタジオで、あの2曲と後日追加した1曲だけでは飽き足りず、色んな曲に挑戦して《遊んでいた》からだ。 『ごめんなさい…こんな無理なお願いしちゃって…』 『いいのいいの。でね…鈴ちゃん、どれくらい時間を延長すればいいの?』 『…5分でも10分でも…二人が許してくれる延長時間であれば…全然…』 『ううん。そうじゃなくて。最大延長時間のこと』 『えっ!最大!?…あの、えっと…30…分…』 『うん。じゃあ私達、30分延長するね』 『いいの!?…ありがとう詩織ちゃん…ごめんね…』 『じゃあ…打ち合わせ始めましょ♪』
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