1301人が本棚に入れています
本棚に追加
そして僕らは特設ステージ横に設置された、やっぱり《新井区》と記された、たくさんの屋形テントの下へと入った。
『啓介くーん、やっほー』
『やっと来た…お疲れ』
啓介さんは僕を見た。
『金魚…緊張とかしてないか?』
『はい。大丈夫です』
『そっか。それは良かった』
啓介さん越しに、向こうの《特設ステージ運営担当員専用屋形テント》のほうで、手招きする詩織の姿が目に入った。
『あ…ちょっと啓介さん、すみません』
『鈴ちゃん、こんにちは。お疲れ様』
『こんにちは。わぁ…金魚ちゃんもカッコいいね!男装。凄く似合ってる』
『ありがとう』
『じゃあ…早速だけど、本題に入るね…』
…本題?
急に笑顔が消え、真面目な表情に変わった鈴ちゃん。
『実はね…30分早く来てもらったのは…ただ30分繰り上がった、ってだけじゃないの…』
『?』
『?』
鈴ちゃんは僕らに手のひらを小さく合わせて見せた。
『詩織ちゃん、金魚ちゃん…ごめんなさい。もしできるなら…ステージでの出演時間…延長してもらえないかな…。もう二人にしか、こんな無理…お願いできないの…』
『えっ…延長!?』
僕と詩織は、お互いの顔を見合った。
『…鈴ちゃんのお願いだから私達、考えてはみるけどぉ…』
『私達だけ出演時間を延長して、他の出演グループから苦情とか出たりしないかなぁ…』そう心配する詩織。
鈴ちゃんは、もう他のグループには手当たり次第に訊いたらしい。けど《延長に対応できるだけの演奏曲数の準備がない》などの理由で、次々と延長拒否…そして最後に、僕らにこの延長の依頼が回ってきたらしい。
『…演奏できる楽曲数の準備は大丈夫かなぁ…?』
『うん。そこは全然心配しなくても大丈夫よ。鈴ちゃん』
僕らは貸しスタジオで、あの2曲と後日追加した1曲だけでは飽き足りず、色んな曲に挑戦して《遊んでいた》からだ。
『ごめんなさい…こんな無理なお願いしちゃって…』
『いいのいいの。でね…鈴ちゃん、どれくらい時間を延長すればいいの?』
『…5分でも10分でも…二人が許してくれる延長時間であれば…全然…』
『ううん。そうじゃなくて。最大延長時間のこと』
『えっ!最大!?…あの、えっと…30…分…』
『うん。じゃあ私達、30分延長するね』
『いいの!?…ありがとう詩織ちゃん…ごめんね…』
『じゃあ…打ち合わせ始めましょ♪』
最初のコメントを投稿しよう!