女装と復讐‐躍進編‐

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午後1時2分前。制服姿の男子高校生バンドの4人組が、意気揚々と観客の女の子達に手を振りながらステージをばらばらと下りる。 『おーし。行くぞ春華…』 『じゃあ私、先に頑張ってくるね!』 『いってらっしゃい!』 『頑張ってー!春華さーん!』 遂にステージへと上がった春華さん、それと秋良さんら男性陣。 足元に落ちてた《シールド》と呼ばれるケーブルのプラグ部分を拾い上げ、ギターに繋いで適当に弾き確認を始める秋良さん達。 ステージ中央の手前位置に立って、マイクを左手に握り、その後ろの様子を見ている春華さん。 僕と詩織、鈴ちゃんは、そんなステージ上を、折り畳み式のパイプ椅子に座って見守っていた。 秋良さんが手を挙げた。演奏を始める合図だ。 『詩織、始まるよ…』 『はぁー。なんか…見てるこっちが緊張しちゃう…』 そして、秋良さんのギターから演奏は始まった。春華さんの歌う曲は、確か…hitomiさんの…。 ♪愛は どこから やってくるのでしょう 自分の 胸に 問いかけた ニセモノ なんか 興味はないの ホント だけを 見つめたい…♪ 春華さんの歌う姿に眺め入る、ステージ前のたくさんの観客達。 歌い出しはそうでもなかったけど…聞いててだんだん、春華さんの歌の上手さに気付き始めたのか…観客らは徐々に鎮まり、雑音も消えて、テンポに合わせた手拍子まで聞こえ始めた。 『ちょっとちょっと金魚!お客さん達ノってきたっていうか…いい感じって思わない!?』 『うん。確かに。徐々に春華さんを観る観客らの雰囲気が、凄く良くなってきたね!』 この女の子らしいポップな曲の感じと、春華さんの高音質な歌声が、ほんとぴったり! 春華さんのステージ上での、貫禄ある落ち着きようと愛嬌ある動きも、なかなか良…んっ? 『いぇい、いぇーい♪』 『いぇーい♪』 椅子から立ち上がり、曲に合わせて物腰フリフリ…ノリノリで躍ってる詩織と鈴ちゃん。 つか、二人も揃って…何してんのって…。 『みんなありがとーぉ♪』 歌いきった春華さん。 『どうも…ありがとぉございましたぁ♪』 観客に向かって元気に手を振り、もう一度深々とお辞儀をする春華さん。 ステージを包み込む、沸き上がる拍手。春華さんは体勢を戻した。 『えぇと…私が歌うのは、この1曲だけです』 「えっ?」 「えっ!?」 観客内に動揺が広がる…。
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