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僕は詩織を見た。詩織だって僕を見る。
『さぁて…行こうか。詩織』
『うん。私も頑張る』
『お二人さん、じゃあ頑張って行ってきてね!』
『はーい』
手を振り、温かく見送ってくれてる鈴ちゃんに手を振り返し、僕ら2人はステージ横に備え付けられた階段を上って、観客の前に現れた。
『どうもー』
『いぇーい♪こんにちは皆さーん♪』
僕らは、突然わあっと湧き立った大歓声と拍手に迎え入れられながら、観客側に向かって手を振る。
ステージから見下ろしたら、観客数…1000人なんてどころか、その倍は居るんじゃないかと思う。…とにかく凄い人の数。
『ちょっとすみません。いきなり悪いんだけど、1分だけ作戦タイムをください』
えっ?何?作戦タイム?
気配に気付き、振り向くと…僕の横でマイクを握って立ってたのは…秋良さんだった。
『とりあえず春華さん、お疲れ様でした』
『春華さんお疲れさまー』
『ありがとねッ♪金魚ちゃん、詩織ちゃん』
ステージの真ん中に集合した僕ら。
『お前ら、緊張なんかしてないよな?』
『はい。大丈夫です。秋良さん』
『私も全っ然平気ー』
『よし。今回は金魚と詩織を目立たせるのが目的だ。啓介、わっち、ヤマ…いいか?頼んだぞ』
頷いて応え、返す3人。
あ…ヤマさんは、ドラム担当の人のこと。
『私がお客さん達の雰囲気を、上手ぁく温めておいたんだから、冷めちゃうようなパフォーマンスだけは止めてよねッ!』
イヤミとかではなく、笑顔を見せながら《いい意味》で僕らを煽ってくれる春華さん。
『絶っ対に大丈夫!だって私と金魚だもん!』
『うんうん。そっかそっかぁ。あと《タンバリン・マジック》にも期待してるねー。詩織ちゃん』
『うん。任せといて!春華さん!』
…タンバリン・マジック?
いつ手に持ったのか、詩織の左手には《フルムーン》と呼ばれる、円型&皮張りなしの黒色のタンバリンが握られていた。
『詩織、それ何?』
『タンバリンよ』
そんなのは僕だって判ってる。そういうことじゃなくて…。
『よし!お前ら始めるぞー!』
『おー!』
『おぉー♪』
秋良さん達は後ろへと下がる。春華さんは急いでステージを下りた。
僕は観客から見てステージの左に、詩織は右に…ほんの少し離れて立つ。
1曲目はGLAYさんの《誘惑》だ。
合うの?ロックにタンバリンって…?
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