女装と復讐‐躍進編‐

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僕は《HELLO》のイントロが始まる前に考えた…。 確かに《ROCK》と《可愛い》との融合は《あり》かもしれない…それはさっき確認したし。 だけど詩織が相手では、どうあがいても《可愛い》って同じ歌唱スタイルなんかでは絶対に敵わない。 つか、やっぱり《ROCK》には《可愛い》よりも《カッコいい》のほうが正統派だと思うんだ。 本当に、カッコよく歌えるかは判らない…けど、僕が今できることは唯一…それしかない! 僕は《詩織には絶対負けたくない!》って感情から、少し腹立たしくなってプンスカ!プンスカ!となりながら、ステージ脇に置いてあるマイクスタンドを取りに行く。 そして元の位置に戻り、マイクスタンドを据えてマイクを取り付け、高さを調整。 詩織は相変わらず、左手にタンバリンを握ってる。けど今度は負けるもんか! 軽快でCOOLな《HELLO》のイントロが始まった。 僕はスタンドに取り付けたマイクの上に両手を置き、ゆっくりと目を閉じる…。 ♪目覚めたのは 夢の後 偽りだらけの 地の果てへ ようこそ…♪ 詩織は、また《タンバリン・マジック》をやってる?けど見たくない…。 この曲までも《詩織のリード》《詩織のペース》で終わってしまったらどうしよう…不安。 ♪…加速する この想い 願いよ 導いてよ 太陽の 向こうまで 願いよ 羽ばたいて…♪ 少々、歌い方が荒々しくなってるのは自分でも分かってた。けど、それを上手く制御することもできなかった。 曲の終盤に差し掛かり、観客らの声が…詩織の歌声も全く聞こえないのに僕は気付いた。 胸騒ぎがして、ほんの少し目を開けた…いや、観客らは僕の目の前にちゃんと居る。 それにバンドの演奏だって聞こえてるのに…? ♪…胸に 刺さった 声が今 響いてる 大切な 人へと 願いよ 羽ばたいて 行け 信じていて 後もう少しで そばへ行ける HELLO…♪ …曲が終わった。僕はゆっくりと目を開ける。 また沸き上がる、何度目かの観客らの声援と拍手。 なんだか僕は安心して、詩織のほうを見…あれっ!?居ない!!? ステージをキョロキョロ見回すと…居た。秋良さんの隣に。 笑顔でタンバリンを頭の上に掲げ、ぴょんぴょん跳びながら両手で叩いている。 『あの…詩織、何してんの?』 『疲れちゃったから休んでたの』 『休んでたって…ちゃんと歌ってた?』 『えへへっ♪(ウィンク)』 『…。』
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