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『ねぇ、お兄ちゃん、どうかしたの?』
『いや…何でもないです…』
オカマのおっさんは『…ふうん。そうなの?』と一言言った。
『…突然こんな事を言うとお兄ちゃん、私を怪しむかも…なんだけどさぁ…』
…怪しむ?
何を言うつもりなんだろう…。
『ちょっと…眼鏡を外して、お兄ちゃんの顔を私によーく…見せてくれるかしら?』
『……はぁ?』
おっさんは『早く早く!』と僕を急かす。…眼鏡を取って顔を見せて…って?何で?…意味が解らない。けど相手は《オカマのおっさん》。逆らうと何をされるか…怖い。素直に眼鏡を外して顔を見せる…。
おっさんは一歩二歩と近づき、僕の目の前まで来た。…背は…僕より高い…。
『凄ぉい…これは凄いわ!!』
『えっ?凄い?…何が?』
『あらら。嫌だわ。それはコッチの話よ』
『……?』
そして、このオカマのおっさん…耳を疑うような事を僕に言い放った。
『ねぇ、お兄ちゃん…《女装に興味》ないかしら?』
『はぃ?…女装?……はーぁ!?』
何を突然、おかしな事を言い出すんだ!?…このオカマのおっさんは…!?
『お願い。ちょっとお話だけでも聞いてくれない?…お願いよ』
『いや…僕は、そういうのには興味ないですから…』
『だから、お話を聞くだけよー』
いきなり僕の腕を掴もうとした!!
そのおっさんの手を払い除け、僕は駅へと一目散に駆け出し逃げた…!!
『ちょっとお兄ちゃん!何で逃げるのよー!!』
《助けてお巡りさーん!!変なオカマのおっさんに僕、追われてまーす!!》…そう心の中で何度も叫んだ!『待ってー!』なんて言われても、絶対待つもんか!!
チラッと振り返ると、着物に化粧草履姿のおっさんが、短距離走の金メダリスト《ボルト選手》ばりのランニングフォームで、僕のすぐ後ろに迫ってきていた…うわぁー!!
『はぁ…はぁ…お兄ちゃん…何で逃げたのよぉ…はぁ…』
…結局…捕まってしまった…。
『はぁ…はぁ…じゃ、いいわ…これあげるから…本当に話だけでいいから聞いて…お願いだから…はぁ…』
おっさんの帯の中から出てきた、半分折りの一万円札、数枚の小束。その一枚を取り、僕に差し出す。現金を見てしまうと…何だか僕の心は揺らぎ始めてしまった…。
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