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だが数年後。
この事件をほとんどの者が忘れ、忘却の彼方へ葬り去っていたところに、男は帰って来た。
いや町の者たちは男とは気付けなかったが、それはたしかに男だった。
男の姿は異形そのものだった。
身体が、真っ赤で、真っ青で、真っ白で、真っ黒で、虹色だったのだ。
「バケモノだ!」誰かが叫んだ。乞食だ。あの乞食が男を見て恐れ、喚き、逃げた。
優位に立ち、笑っていたものが色を変えただけであっさりと泣き逃げる。
乞食だけではない。前まで男など目にも止めなかった人々が逐一男を発見し逃げ、叫ぶ。
男は正解を言い当てていたのだ。
アンジェリアは人間だった。アンジェリアは男だったのだ。
アンジェリアとなった事に気付いた男は逃げ惑う人間を見て笑った。
「滑稽だ!」
人々は気付かない。
内面はほとんどかわらない、自分と何もかわらない一つの人間であることを。
恐れる必要はどこにもないことを。
男、アンジェリアは笑う。滑稽で、愚かで、醜い人間を嘲り笑う。
だが男も気付かない。
アンジェリアは人間だという事に。
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