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渚と合流してまもなく、美樹ちゃんが突然おたけびをあげました。
「あぁぁぁぁぁあああ!?」
隣の渚も道行く数少ない人も、勿論わたしもビクッとして美樹ちゃんを見つめます。何かしらよからぬモノに取り憑かれたのでは?、そんな思いが共通してわたし達には生まれていました。言葉にしなくてもわかります。
「ど……どうしたのルーヴェさん?」
沈黙を破ったのは頼りになるお姉ちゃん、渚でした。ちなみに、ルーヴェというのは美樹ちゃんの事です。美樹ちゃんハーフですからね。
「ワタクシ!やってしまいました!」
背筋をピンと伸ばし、見事な敬礼を決め込む美樹ちゃんへ、今度はわたしが聞きます。
「なにを?」
「どうやらワタクシ、定期券を持っていないのであります!おそらく、家に忘れたのでしょう!そうだ!そうに違いない!のであります!」
「じゃあどうやって来たの?」なんて野暮なことは聞きません。意味がわからないので、渚に困った顔を向けます。しかし、渚も同じようにポカーンとして美樹ちゃんを見つめるだけです。
「しまったぁ、くそう、まこちゃん……そういうわけだから」
…………はい?
美樹ちゃんは全然悔しそうではなく、むしろ「我、してやったり」みたいな策士の微笑みを浮かべてます。
「えっと、どうゆう事かな真琴?」
渚の持つ処理能力では現状を理解するのは困難なようです……いやわたしも。
「美樹ちゃん……そういうわけって何が?」
「え?泊まるって事だけど」
「えぇぇええぇえぇぇえ!?」
再びのおたけびの犯人はわたしです。
「無理無理っ!切符代ならわたし出すから泊まらずに帰りなよ」
渚へ支援の要請、目配せを試みましたが、何やらニヤニヤよからぬ顔をしております。
「まぁさ!ソレは後でゆっくり話せばいいじゃない。とりあえず、真琴の家行きましょ」
「斎藤さんのおっしゃる通り!とりあえずまこちゃんの家行こう!近いって言ってたじゃん!もう着くんでしょ?」
たしかにもうすぐソコです、しかし着く前に解決しなきゃならない問題が浮上してきたのですが?
「真琴真琴」
左を歩く渚が満面の笑みで話し掛けてきました。
「こういうピンチはこれからいくらでも起こってくるよ?今日は私もいるから、その予行演習と思ってさ」
「無理無理っ!」
まぁここで何を言おうが結果は変わらない……渚とは長い付き合いだからわかるのです。
この顔は、無理なパターンだなって。
そして我が家に着きました。
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