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「ど、どうぞ……はぁ」
ドアを開け、無意識にため息をついてしまいます。渚はまぁいつも通り「おじゃましまぁす」とドアをくぐるのですが、美樹ちゃんはそう上手くいく筈もなく。
「ひぃぃぃ!ま、まこちゃん!?この明らかな男物の靴は何ぃぃぃ!?」
無造作に並ぶ誠の靴を見て、驚嘆する美樹ちゃん……仕方ない、何か言い訳を考えますか。
動揺する心を必死で隠し、さも当然のような振る舞いを心がけます。
「あぁソレ?この前お父さん来てたから忘れ物だよ」
「靴を!?」
う……いい返しが見つからない。確かに忘れ物に種類は数あれど靴を忘れるってない。
「この前真琴のお父さん酔っ払ってたじゃない?それでじゃないかしら」
渚が靴を脱ぎながら素晴らしい返しをしてくれます。
咄嗟にそんな事が閃くって……渚が頼もしいのには変わりはありません。
「うんそうそう、お父さんお酒飲んでたからなぁ」
「へぇ、仲良いんだね」
やっと美樹ちゃんも納得してくれたようです。「おじゃましまぁす」と玄関を抜けました。
その隙に誠の靴を片付け、他に危険なものがないかチェックをします。……どうやら、玄関には危険因子は無いようです。ひとまず安心。
2人の後を追い、リビングへ。すでに荷物をソファーに置いた美樹ちゃんは、部屋の中を物色していました。
後ろに組んだ手が不気味に動いてます。耳を澄ませば一定のリズムを刻む美樹ちゃん作の鼻歌なんかが聞こえてきそうです。
「まこちゃんさぁ」
ひっ!
気が付くと美樹ちゃんが首だけこちらを向き、何か不思議そうな顔をしてました。
「えぇぇぇなぁぁぁぁにぃぃぃぃかぁぁぁぁなぁぁぁぁ?」
「え?何かな?」という言葉をこれでもかって位時間をかけて、ゆっくり発しました。その僅かな時間で部屋中くまなくチェックしましたが、誠の存在を裏付ける危険物はキッチンに置いてあるコップくらいでしょうか。
よし、アレをぶっ壊せばとりあえず安全だ。
長ったらしく言葉を発するそんなわたしを見て、美樹ちゃんは首を傾げます。
「とりあえず荷物置けば?って自分の家じゃない私が言うのも変か、アハハハハ」
たしかに……今はそれどころじゃないので頭に無かったのですが、わたしは今自分の家にも拘らずしっかりカバンを手にした状態で固まっているのです。
さすがに……さすがにコレは不自然だ。
「あぁすいません、考え事してました」
荷物を置くと、再びため息をついてしまいます。
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