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勇者というものは実に勝手で、我が儘なものだと思う。
一回力尽きても一定の代償を払えば生き返る、というのが実に忌々しい。
それを勇者はさも当たり前のように思っているだろうが、これも魔王さまの優しい心遣いあってこそのものなのだ。
「覚悟しなさい、ジャック。私の可愛い部下に平伏しなさい!」
そんなこんなでジャックは1日ほど村の中でウダウダしながら、ようやく村を出ることにしたのだ。
そして、村を出ると当然のように魔物が勇者を襲うわけだ。
ジャックは片手に棍棒を持ち、しかしそれでも心細いのか、もう片方の手には薬草が握られていた。
体はガタガタと震え、とても戦闘できそうにはない。
魔物の大きさは四~五十センチはどの小柄な体であるのにこのビビリ様だ。先が思いやられる。
「ジャック、あれほどの敵にビビってどうするのぉ!お前は敵一体倒すのに私の一日を潰すつもりかっ!
ヘタレ、ヘタレヘタレーっ!悔しかったら一撃でも与えてみろ!」
今回はマイクがオンになっているということはなかった為、ジャックには聞こえていないが、もしオンになっていたら確実に魔王さまという地位に揺らぎが生じていると思う。今でも少し揺らぎかけている。
痺れを切らした魔物は遂にジャックへと攻撃する。
それに対応し、ジャックは薬草を口に銜え、棍棒を両手構えに直す。
そして、野球のバットのように魔物に向かって棍棒を振り、突撃する魔物を『打った』。
「…………これは、アリなのかなぁ?」
ディスプレイ越しにその一部始終を見ていたイリアは、以前の勇者と全く違うことに気付いた。
どの勇者だって、剣や棍棒の太刀筋は一通り覚えていた。
しかし、この勇者は違う。努力の『ど』の字さえも見えない遊びの延長――そんな姿が、見えていた。
「これは、考え物ですねぇ……」
そしてジャックが最初に訪れる町の地図のデータを開き、少しだけデータを改ざんしたのだった。
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