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「は、はい。お母様の物ですから、こうやって着ているのです。普段は魔術を使って体を大きくして、それで着ているんです」
メグの返答にふふ、と口元を押さえながらイリアは笑い、
「メグみたいな娘が私の娘でよかった。私もいい娘を持ったものだよ。
ありがとね、メグ」
不意打ちを受け、メグは硬直するも、すぐにその顔は解れ、笑顔に変わる。
「こちらこそ、産んでくれてありがとうございます、お母様」
俯き気味に、頬を少し赤らめながら、そう言ってメグは管理棟を後にした。
そして、メグが管理棟を出たのを確認してからイリアは深く溜息を吐く。
「あの娘が私にあんなことを言うなんて……。私のほうがメグのことを分かっていなかったのかもしれない……。
私の方が子供だったのかもしれない、これで魔王さまだなんて……」
――みっともない。
そんな言葉を口に出そうとしたが、止めた。
唇を噛み締め、ぐっと涙を我慢する。
甘すぎた自らの考えを、我が娘に諭されるとは思いもよらなかった。
「……ひぇ、ひっく…………」
しかし、泣いた。気づけば泣いていた。
魔王さまとしての矜持を、娘とはいえたった一人の小娘に諭されたのだ。
あまりにも屈辱。あまりにも滑稽。故に悲劇。
今までに自分が魔王さまらしいことをしたことがあったろうか?
本当にちゃんとメグのことを考えたことがあるのだろうか?
メグの父親――自分の夫についてメグに少しでも話そうとしたことはあったろうか?
全ての答えが“No.”。
あまりにも情けない自分の姿に、涙が止まらなくなる。
「わ……わたひはっ…………、まお……う、さまっ、で……いいの、かな…………?」
声を押し殺しながら、静かに泣く。
自分の存在意義を確かめ、ただひたすらに自らに問う――そんなことを数分、続けていた。
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