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――一方、勇者ジャック。
「――という訳で勇者になったんですが……」
「ふぅん、早い話、私利私欲か。最近の若い人間は全員こんなろくでなしばかりなのかと思うと……この世界も危ないな……」
少なくともこれ程に落ちこぼれているのはジャック・ハルベルト、ただ一人だと思う。
しかもこの人間が魔王さまを退治すると言うのだから、心配が折り重なるのも不思議ではない。
「弱い、ヘタレ、外道。これ以上に情けない勇者なんて私は見ることはないと思うし、仮にいたとしても世話なんて焼かないね」
至極ごもっともな意見だった。
逆に何故こんな人間が勇者なんていう大層な職業になったのか、その本当の理由は決して分かる筈もない。
そんな容赦無いマリアの言葉にジャックは反省の色を少しだけ浮かべていた。反骨精神を浮かべるでもなく、開き直る様子もない。
「どうしたら――」
静かにジャックは口を開き、マリアに問いかける。
「どうしたら、強くなれますか?」
その言葉を聞いたマリアは、一瞬驚き、しかし次の瞬間には笑っていた。
「……ふっ、やはり男だな。これ程に言われて何もしないのならば、本当の落ちこぼれだと思ったが……まだまだ救いが有るようだ」
その言葉を聞いた瞬間、ジャックはマリアにはっとしたような顔を見せた。
救いの手が差し伸べられた時のような、不安と喜びが混ざったような顔だ。
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