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『イリア様、12時デゴザイマス。オ昼ゴ飯ハイカガナサイマスカ?ケケケッ!』
やがて、パソコンのアラートが正午を知らせる。自分で設定したのに驚いているのは言うまでもない。
一度イリアはデスクを離れ、再び財布を持って町へと出掛けようとする。
しかし、数歩歩いたところでイリアは何かを思い出したかのように立ち止まり、何かに納得したかのようにポン、と手を叩く。
「そういえば、今日は屋敷に料理人さんが来るんでしたぁ♪早く食べたいなぁーっ!!」
イリアは上機嫌で管理棟を後にし、ミーナを呼びに行くため、牢獄へと向かう魔方陣へと一直線に走っていった。
……
…………
………………
……………………
――グレイパール城、地下牢獄
一人の少女と若干名の警備兵しかいない薄暗い牢獄にイリアは再び来ていた。
「イリア様、見回り御苦労様です。何か御用でしょうか?」
入口に構えていた警備兵の一人がイリアに用件を尋ねる。
「ミーナを呼びに来たのっ。今日の食事会に呼ぶんだよ♪」
「左様ですか。どうぞお通り下さい。監獄の鍵と枷の鍵です」
イリアの目的を聞いて警備兵は朗らかな表情を浮かべながら、イリアに一通りの鍵を渡した。
――コツン、コツン……。
コンクリートとブーツが擦れる無機質な音が牢獄一帯に鳴り響く。
その音は本来ならば恐怖の音を示す。例えば、極悪非道を尽くす悪の魔王が近付く音なんかが妥当だろう。
しかし、この牢獄に限ってはそうではない。お人好しで、寛大な心を持つ、『魔王さま』が近付く音――希望の音だ。
「ミーナ、私と一緒にご飯を食べよっ!」
牢獄越しにイリアの言葉を聞いたミーナは、これまでの無表情が嘘かのように一転、明るい表情へと変わった。
「い、いいのですか……?その、私なんかが一緒にさせて貰っても」
「いいのっ、私が良いって言ってるんだから!……ほいっ」
ミーナの戸惑いの声に対し、イリアは牢獄の鍵を解錠し、四肢の枷の鍵も解錠しながら、さも自分がルールかのように答えた。
足枷の鍵を解錠し、イリアはミーナに向かって手を差し出す。
「ほらっ、一緒に行きましょう♪」
そんな無邪気な魔王さまの様子にくすり、とミーナは笑い、
「…………はい!」
手を差し出し握り、イリアと共に牢獄を去り、大食堂へと向かった。
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