勇者がヘタレなので一式の装備を初期から揃えさせておきたい

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「あー、ついに勇者さんが村を出発しましたぁ!」 真っ黒な服に身を包んだ160センチ辺りの少女。 黒いリボンを付けた紫髪のポニーテールに、ふっくらとした頬。豊満な胸や腰のくびれは見る者を誘惑させる。 赤より深い紅の目は、見る者を吸い込んでしまいそうな不思議な力を秘めた目。 この人物こそが我らが魔王さま、「イリア・グレイパール」である。 イリアは勇者――『ジャック・ハルベルト』が映るディスプレイをうっとりと見つめながらも、キーボードを叩いていた。 その作業中、黒色の携帯が鳴り響く。それをイリアは右手で取り、親指だけで携帯を開き、通話ボタンを押した。 「もしもしこちら魔王、イリア・グレイパールさまですぅ!ご用件はいかがなものでしょうかぁ?」 異様なハイテンションでイリアは電話に応対する。 『こちらA-01部隊です。ジャック・ハルベルトが出発致しましたが、いかがなさいましょうか?』 電話の主はエンカウントモンスター――フィールド、マップ上に現れる所謂ザコ敵だが、その集団の中のリーダー格になるモンスターからだった。 「通常配置でお願いしますぅ。出来るだけ悟られないように、タイミングに注意してくださーい。 只今フラグ処理中なので、もうしばらく余裕があると思います。だからよくよく会議を進めてくださいねぇ~」 『了解しました。それでは魔王さま、ご無事で』 「幸運をお祈りしていますわぁ~」 電源ボタンを押し、通話を終了させる。人差し指のみで携帯を閉じ、机の上に丁寧に置いた。 「ジャックはヘタレだから、私の元まで来ますかねぇ?」 うーん、と頭をカリカリと掻きながらイリアは画面を覗き込む。 画面にはジャックとその家族が談笑を交わしているのが見えた。 しかし、その画面に映るジャックの表情は恐れというよりも怯えの表情が現れていた。 おそらく今からイリアに立ち向かうという恐怖心がジャックを煽っているのだろう。 「もぉ、ジャックぅー。今からビビってどうするのよぉ。  まだ何もやってないのに、ガタガタ震えてちゃ幼馴染みは救えないわよぉ?」 そんな一言をぼそっと呟いた後、イリアはディスプレイから離れ、管理棟から外に出た。
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